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射精の学習実践・高校

男と女で疑問を出し合うちょうちん持ち授業

1.両性で交流するグループ授業

 「わかりません」「前の人と一緒です」
 これが教師の質問に答えるときの多くの生徒の一般的な言葉である。小学校から、いわゆる「落ちこぼれ」をつくり、効率だけを求めてきた「詰め込み教育」や「受験偏重教育」の結果であるが、正解だけを与え、次々と進んでいくような授業には、当然のことながら生徒間あるいは教師・生徒間の交流が入り込む余地はない。さらに、近年の教育政策を見ると、高校においては総合学科の設置、飛び級制の導入、自主活動の削減など、学びの共同体である学校・ホームルームを解体する方向で進められ、ますます生徒が孤立化させられる傾向にある。
 このような状況で、高校の授業は保健も含め、本当に成立しにくくなっている。しかし、本来、保健の授業は「生存権レベルで人間をとらえるゆえに、社会科以上に社会を照射する力を持っている」と言える。
 私もこの視点から、生徒同士の交流を重視した「子どもとともにつくり」「子ども同士で学び合う」授業に変えていくように努力している。
 私の保健の授業では、三〜五人くらいのグループに分かれて、生徒同士で意見や考えを出し合い、それをグループごとにまとめて発表する方式をとっている。話し合いの課題は、できるだけ正解というものがなかったり、現代的関心事になったりするように心がけている。このことによって、「わかりません」「知りません」などは、皆無になったといってよい。
 しかしながら、わが校は共学でありながら体育との関係で保健は両性別講座に分かれて行われ、両性間の交流がないという欠点があった。それを逆手にとって考えたのが、女子講座がグループで考えた疑問・質問を男子講座に答えてもらう(その逆もある)名づけて「女と男のちょうちん持ち授業」である。
 方法として、質問・答えとも、匿名でOK、アトランダム回収とした。この点などから、面と向かって言えない本音がポンポン出て、大笑いになったり、新しい発見があったり、自分たちの疑問・質問に対して、異性の答えを私が読み上げるときなどには、シーンと静まりかえったりした。
 このように、両性が直接話し合いをする場合は「照れ」などでなかなか成立しにくい面も克服され、日本の文化では少ない「両性の意見・考えの交流」に大いに役立ってくれている。

2.回数が多いとバカになる?

このシリーズの授業計画は、
・一時間目----両性の生理(月経・射精)、自慰について考える
・二時間目----男性の自慰のための道具・ファンタジーとしてのアダルトビデオを考える
・三時間目----男性の自慰文化で歪められる性交間から挿入にこだわらない性交を考える
 であるが、今回は紙面の都合から一時間目だけを取りあげた。
 この授業ではあらかじめ女子講座からとっておいた射精・自慰に関する疑問・質問アンケート(《1》〜《16》)に答えてもらい、それを私が読み上げ、解説して授業を進めた。
 プライバシーを尊重して、質問には個人の答えられる範囲で答えてくれるように要請したが、教師のつくるアンケートよりよほど真剣に答えてくれた。以下、授業の様子である。
《1》射精って(全体的に)どんな感じ? どういう気分・気持ちになるのですか?
 男子の主な答え 「もうたまらん」「気分爽快」「この世をひっくり返せる力を得る」「気持ちいい。でもやり終わったら、なんでこんなことしているのかと思って恥ずかしくなる」「天にも昇る気分」「すんごく気持ちいい。でもやり終わったあとは自分があほらしくなり、オレって何やってんやろと思う」「気持ちいい、女にかけたくなる」「いやな気分」。全員二二名の講座でいろんな表現ながら、快感と答えた男子が二一人。あとの一人は「いやな気分」と答えている。
 私の解説 女子は男子の射精がどんなに快感があるか、そして射精のあとに虚脱感があることを、これらの男子の本当に素直ですてきな表現によって、理解してくれたようである。この点で女子の月経と大きな差があること、それがその後の自慰(性)行動においても、個人差はあるが、男子の積極性を生む一因となることを説明した。と同時に、「(精液を)女にかけたくなる」など攻撃的な「性」の回答にはアダルトビデオやポルノ記事の影響が見られること。ただ一人「いやな気分」と答えた男子の原因をあくまで推測として「罪悪感」や「完全包茎や病気になる苦痛」、あるいは「少数だが性同一性障害からくる嫌悪感」などの観点から説明した。
《2》射精の量は一回どれくらいなんですか?
 男子の主な答え 「そのときによる」や「はかったことがないから、わからない」が最も多かったが、なかには、誇大視しているのか単位を間違っているのか、「三リットル」「一、五リットル」「五〇〇CC」などの答えもあり、みんなで笑ってしまった。一番わかりやすかったのは「手のひらに受けれるぐらい」というものであった。
 私の解説 一般的に二〜四CC(その中に精子が二億から三億)と言われるが、これは、個人差があることや同じ個人でもその日のそのときによって違うことを説明した。
《3》出てる瞬間はわかるのですか?
 男子の主な答え 「わかる」「見える」「当然」という答えが大半であったが、そのときを描写して「シコっていてて、出るぞーときて、ドピュッって(おっとティッシュ……)」という答えもあり大笑いになった。
 私の解説 出るという感覚があまりなく、快感を伴わない女子の月経と射精には大きな違いがあり、射精の瞬間の貫くような快感は、月経とは根本的に違うことを説明した。
《4》どの程度の刺激で起こるのですか?
 男子の主な答え 「人による」が多かったが「三〜四分こする」「九五万パワー(筋肉マン)」「自慰のときは結構がんばらなあかん」「ちょっとしたことで」などがあった。
 私の解説 これも人によることやそのときによって違うこと、また刺激を言葉で表現しにくいことを説明した。
《5》我慢しようと思えばできますか? 射精しなかったらどんな気分になるの?
 男子の主な答え 「できる」が大まかに分けて一八人で、「やりたいとき我慢したらうっとうしくなるけれど、何かをしている間に忘れる」「できるけどやってしまう」や、我慢の意味を自慰行為の途中と勘違いした「できるけど出るラインをこえるととめられない」という答えであった。一方で「我慢できない」も三人おり、「とてもじゃないけどムリだ。キレる」「三日が限界、イライラしてくる」などの答えがあった。
 私の解説 「精子は三日で満杯にたまる」という、迷信となってほしい言葉がいまだに信じられているが、実際は精子は分解吸収される。たまることを理由にした「男は我慢できない」という男性本位の間違った性情報が多くあり、それを根拠に「我慢できないからやらせろ」などという男がいたりするが、それは最悪であること。
 また勃起から射精と続く貫くような快感との葛藤は、男性本位の情報の刷り込みと混ぜ合わされ、男性にとって女子の月経とは違った困惑があることなどを説明した。
《6》最初のころから自慰は自分でコントロールできるものなのですか?
 男子の主な答え 「初めっからだれでもいつでもできるが、ぼくの場合、それに耐える精神が必要である」「よくおぼえていない」などであった。全体的には男子二二名のうち、コントロールできる=一五人、わからない=五人、コントロールできない=二人であった。
 私の解説 人間は学んでおぼえていく動物。最初からコントロールはできないし、また自慰の仕方もわかららない。メディアや友達の情報や自分の快感をより増していく感覚で方法を覚えたりすることで自慰・射精をコントロールできるようになること、また男性の射精は女性の月経と違って随意性が重要であることから、自慰で射精をコントロールすることを覚えるのは男性にとって大きな意義があることを説明した。
《7》夢精があった朝、どんな感じですか? あとの処理はどうするの?
 男子の主な答え 「いやだった。自分で処理する」「びっくらこいた。洗濯機へGO!」「ベッドの下へパンツを隠す」「ションベンもらした感じ、ドライヤーでOKよ」。全体的には最初から自慰が七人、わからないを合わせると過半数を超え、最近の傾向を示した。
 私の解説 夢精に関しても知っておかなければ、おねしょと勘違いしたりすること。夢精は「母親の引力圏からの脱出」とも言われ「ぬれたパンツ」は母親・家族には知られたくないこと、ドライヤーで乾かしても固まってしまってわかるし、洗濯機に入れてもパンツの数が増えることでわかってしまうこと。できれば家族に射精の意義を理解してもらうと同時に、「自立」のため自分で下着くらいは洗うようにしたいこと。ちなみに「自分の下着はだれが洗うか」調査したところ、全員が「母親」という答えであった。せめてぬれた部分をつまみ洗いぐらいしてからドライヤーで乾かすことをすすめた。
《8》女は周期的に出ますが、男はどういうふうですか?
 男子の主な答え 「ドピュッ(くしゃみして鼻水が出る感じ)。それでおしっこの何倍もの快感」この表現は名文句で女子には一番わかりやすく大好評だった。
 私の解説 月経の説明で「月経は鼻血がドローと滲み出る感じで出血を特別意識しない」と答えてくれた女子がいたが、男子の射精は随意性・快感の点でこの男子の名文句のように全く違うことを再度、説明した。
《9》ふつうは何回ですか? どのくらいのペースで自慰をするのですか?
 男子の主な答え 「一日三回」「日課です」「日にもよるし人にもよる。けっこうバラバラ」「週に二回くらいのペース。自慰には個人差がある」「半年に一回」「一日一回でおれは眠くなる。毎日とか月に一回とか、先月は月一回やった。ちょっと最近やる気起こらんのよー」
 私の解説 男子の自慰・射精は随意的にできるため、個人差があり、同じ個人でも気分や体調でペースが変わったりすること、女子の月経のように定期制はないことを説明した。
《10》どこでする? 人に見られたらどうする? 何分かかるの?
 男子の主な答え 場所は圧倒的に「自分の部屋」が多く、回答してくれた二〇人全員がこの答えであった。声は「出ない」が一三人、「出る」が一人、あとは「わからない」であった。時間は「五分前後」が三人、「一〇分から一五分」が四人、その他は「そのときによる」や「わからない」というものであった。
 私の解説 自慰はプライベートな行為であるから、プライバシーが守れる環境が不可欠であり、声は個人差のあること。ここで人権としてのプライバシーを考えるため、男子に「自分の部屋を持っているかどうか」聞いたところ、「防音も十分で持っている」が十人、「一応持っている(障子・ふすまなどで仕切り)」一一人、「兄弟で共有」一人であった。このあたりは新興住宅地や古くからの農家が多いため、比較的自分の部屋の持ち率は高いものと思われる。
 次に「部屋にカギがかかるか」聞いたところ、「カギがかかる」は四人のみであった。最後の家族が自分の部屋に入ってくるときの「ノック(確認)」の有無を聞いたところ、「全くノックなし」が七人、「ノックなしのときあり」が八人、「必ずノック」は五人であった。このような結果からも、わが国では貧困な住宅・家屋環境、「性的自立」を配慮しない家族関係などから自慰に必要なプライベートな空間と時間の確保が難しいことを説明した。
 さらに男子の自慰は自分の意志でコントロールできるようになるものだから、時間も個人差があったり、個人でもそのときによりまちまちであることを説明した。
《11》学校でなったときはありますか? どんなとき? どうする? 夏服とか透けてるし女の子を見てドキドキするんですか?
 男子の主な答え 「ボッキする」「女の子による。学校ではない」「女の子見て、立ってきます。いわゆるボッキですね」「一日に一〇回以上ある。頭のなかでは女を犯しているときそうなる。透けてる女の子は今夜のおかず」「ない」「なるとかならないとかじゃない。女の子の生理とは違う」
 私の解説 「学校でなった」というのは、男子の答えにもあったように、自慰・射精と勃起とで解釈が分かれたようだ。「ない」と答えたというある男子に「勃起は?」と聞いたら、「なんだ、そんなんしょっちゅう」という答え、みんなも一様にうなずく。私も「僕も高校生時代はしょっちゅう立っとったよ。あれはホッとした瞬間が多かったから、授業の終わりのベルと同時に勃起して、あいさつで起立・キャーツケができず、当時の先生から『○○! ちゃんと立たんか!』と叱られ、心の中で『もう立っています』と答えていた」と話したら大笑いになった。女子講座には、こんなに素直に答えてくれた男子に敬意を表して、「男子はなんていやらしいんだろう」と軽蔑することのないようにしてほしいと説明し、なぜなら、頭でどう思っていようが行動に表すことは別だし、自慰は、どう想像を動かそうが誰にも迷惑がかからない自己完結型行為であり、男子も男性本位の攻撃的な性情報と実際との違いをこの授業で学んで進歩しているんだからと話した。
《12》自慰って何? 精通って何?
 男子の主な答え 自慰については、「オナニー」「快感を得られる」「マスターベーション、自分で精子を出すこと」。遺精については、「エッチな本やビデオをみたとき、勝手に出ること」。多かったのは「わからない」というものであった。
 私の解説 自慰というのは「自分で性的快感を得る行為である」が、決していやらしい行為ではなく、自分のからだをいとおしむ「自体愛」であること、遺精は「夢精とは違い、起きていて自分で意図的にしようと思わずに射精すること」と説明した。さらに女子の自慰についても、自分のからだを知り、その主人公となるため、決してマイナス・イメージではとらえてほしくないことを説明した。
《13》自慰をすると記憶力が悪くなってバカになるんですか? 自慰は一日三回は多いですか、また、やってはいけないことですか? 
男子の主な答え 「どんどんやりましょう」「はじめからバカでした。三回はしません。どんどんやりましょう」「もともとバカだし、これ以上バカにならない。三回は少ない。やりたきゃやるべきだ」「バカにならないし、一日三回は多くない。夢精になったらかなわん」「多いと思うけど、やっていけなくはない」「たぶんバカになると思う」
 私の解説 「もともとバカ」という生徒の答えを呼んでいて無性に腹が立ってきて、「バカだと思っている人間にバカはおらん! 自分は完璧で人より偉いと思うとるような、いまで言えば大蔵省のキャリア官僚なんぞの方がよっぽどバカだ。人間は不完全を自認してこそ個人的にも歴史的にも進歩があるんだ。これを書いた生徒は人間的にそんなやつよりよっぽど上だ」と大きな声で言ってしまった。さらに「自慰の回数の多さを気にする必要はない。先生も一日三回したこともある。でもいま、賢いとは言えないが先生をして、みんなと勉強をともにすることが楽しくてしかたがない」と話した。そのときの男子講座のみんなの顔は本当に真剣な表情をしていた。
《14》いつごろから自慰をするようになりましたか? 一人でしてて、むなしくない?
 男子の主な答え 「小五」が一人、「小六」が二人、「中一」が六人、「中二」が六人、「中三」が二人、「わからない」が五人であった。また「むなしい」と答えたものが一八人と多かった。
 私の解説 特に、「むなしい」と一八人が答えたことにこだわり、「女の子に聞かれたからセックスのかわりに自慰では寂しいと解釈したんかな」と聞くと、男子講座では多くがうなずいた。そこで「自慰」と「性交」は全く違い、昔から言われる「セックスのかわりにマスかいて辛抱しとけ」という性交の代用としての「自慰」の歴史的な位置づけは誤りであると話した。同時に、射精のあとの虚脱感については、「むなしく」思う必要のまったくないことを話し、「僕もセックスする相手がいても自慰をしていたよ」と話した。
《15》SEXしたとき女は痛いけど男は痛くないの? SEXと自慰では快感が違うの?
 男子の主な答え 「(経験ないから)わからない」が十三人、「(たぶん)痛くない」が五人、「痛いときもあるよ」が五人、その他無回答であった。快感の違いは「違う(であろう)が六人、あとは「わからない」と無回答であった。
 私の解説 男性の亀頭は感覚の鋭い部分で傷つきやすいから、ハードなセックスでは痛くなることもあるが、一般的には男子は最初から苦痛はない。それどころか射精があれば最初から絶頂感まである。女子は個人差があるが、多くは最初から快感を伴わない。特に相手が挿入・ハードな性行為・射精にこだわればなおさらである。この点は女子にとっては本当に損である。だからこそ女子は自分の意志と感覚をはっきり言い、不必要に痛みを我慢することのないよう、男子は相手に聞くことで、無理をせず、挿入だけにこだわらない、より苦痛を和らげ相手を思いやるコミュニケーションが必要であると説明した。
《16》男の人とHしたいなーと思ったことはありますか?
 男子の主な答え この質問に関しては、全員がニュアンスの違いはあるものの「思ったことはない」というものであった。
 私の解説 この問題は興味本位で考えてほしくないことをまず話し、一般的に同性愛指向の人の率は、四%とも一〇%とも言われるから、この男子講座でも当然いてもおかしくないし、私はいるつもりで授業をしている。にもかかわらず、全員が「思ったことはない」というのはなぜか考えてほしいと話した。その理由として、異性愛が当然という刷り込みからまだ自分の性的指向に気づいていない場合と、「差別」や「嘲笑」の的になる社会の状況から自分の性的指向を偽っている場合がある。わが国では「両性間の、結婚をした、生殖のための性行為」だけはマジョリティとして認められ、他のマイノリティの性は無視されたり迫害されたりした歴史があるが、マイノリティの性的自由」は人権として不可欠であることを説明し、将来その自由が当たり前になる「共生」の社会を築いていくことが必要だと説明した。
 現在、わが国において両性間の交流は本当に難しくされている。顧問をしているクラブのOBで「先生、やれる女の子紹介して」というのが口癖の若者がいる。彼の生活は「毎日、夜の一二時まで仕事や」という。今年、いわゆる一流といわれる企業に就職したOBも「夜一〇時に帰って朝は六時半に出ます」と語る。
 授業でも両性どちらもの講座に不特定の異性との交流を聞いてみると、「よく交流する」が、女〇人・男一人、「普通に交流」が、女一三人・男五人、「あまり交流しない」が、女一三人・男一二人、「まったく交流しない」が女六人・男四人であった。さらに、読む雑誌などにも大きな違いがある。まさに社会的に両性が豊にコミュニケーションする時間や機会がいかに奪われているかがわかる。この授業実践がその両性の壁を少しでも取り払い、交流の扉を開くきっかけになってくれればと願っているが……。
関口 久志

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