性教協 声明(9.16)
- ■外部講師委託(外注化)方針に依存せず、
学校における包括的性教育の推進を真剣に検討すべき - ◆都教委の性教育(中学校)の実施状況調査結果発表を受けての声明
2018(平成30)年9月16日 一般社団法人"人間と性"教育研究協議会(性教協)
- 性教育を後押しする現実、遠のくバッシングの再現
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3月16日、東京都議会本会議で自民党の古賀俊昭都議が、「不適切な性教育が行われている」と、足立区の中学校で行われた人権教育の一環としての性教育を攻撃し、是正を求めました。東京都教育委員会はそれに対して、「検証を徹底して行い」「適切に実施されるよう指導する」と答弁しました。
あれから6か月。毎日新聞9月11日の記事によれば、都教委は「同校の指導内容に変更を求める考えはない」とし、「授業を容認する姿勢を示した」とのことです。都民の「中学生にも性交、避妊、人工妊娠中絶、性感染症、性暴力等、大切なことをしっかり教えるべき」という圧倒的な世論に押されての結果とみるべきでしょう。
6月都議会では、都民ファースト、自民、公明、共産の各会派が代表質問や一般質問で性教育について取り上げる(内容に違いはあるが、いずれも性教育を推進すべきという質問)という異例の事態が生まれました。小池都知事は「学校における性教育は、子供たちの人格の完成を目指す教育の一環でございます。そして、人間尊重の精神に基づいて行うとともに、子供たちが性に関する正しい知識を身につけて、適切な行動を選択できるよう指導していくことが大切でございます」と答弁しました。石原慎太郎都知事、横山洋吉教育長時代の「科学・人権・自立・共生」を柱とした性教育への暴力的なバッシングの時代とは異なる展開を迎えていますが、ここにも都民の声が反映しているとみるべきでしょう。 - 都教委性教育調査の大きな問題点
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都教委は、8月3日から23日にかけて、都内の全公立中学校等624校に対して「性教育(中学校)の実施状況調査」を行い、9月13日に公表しました。調査は全部で5問。校長名での回答です。この調査結果の詳細な分析は他の機会に譲るとして、大きな問題点だと考えられることについて述べます。それは今回の調査が、性教育の「外注化」(=外部講師への委託)方針に道を開く上での補強材料になっている点です。
およそ、どのような調査も、政策的な意図があって質問が作られます。質問には政策が表れます。今回の設問の特徴は、学校で性教育を進めていく上での困難、解決したいこと、してほしいこと、予算措置や人員の希望等、学校でまともに性教育を行う上では欠かせないはずの点についての問いがほとんどなく(最後に『5.性教育全般の意見』という自由記述欄があるが)、具体策としては「医師等の外部講師の派遣」が提示されていることです。
もう一つ例示されている具体策は、「教育委員会からの性に関する指導資料等の配布」ですから、都教委の具体的な施策は、事実上「医師等の外部講師派遣」に絞られたとみるべきでしょう。事実、都教委は富山県、秋田県等、医師会が教育委員会と協力して中学校や高校への性教育を進めている自治体に職員を派遣して調査を行うとともに、都内産婦人科の医師には、性教育への講師派遣に協力してほしい旨の申し入れを行っています。 - 「性教育の外注化」をどう考えるか
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「外注化」方針は、都教委の矛盾を解決するための苦肉の策と言えるでしょう。各種世論調査で「中学生にも性交、避妊、人工妊娠中絶、性感染症、性暴力等、大切なことをしっかり教えるべき」という声は圧倒的です。
しかし、都教委は「子どもの実態に合わせて、学習指導要領を逸脱して指導することはできません」(4.6都教委申し入れの際の課長発言)という立場を取っています。世論に応え性教育を実施すべきという立場と、自ら言明してきた「指導要領を逸脱しない」という路線との矛盾。これを解決するのが「医師等の外部講師派遣による性教育の実施」なのでしょう。性教育を極めて狭い範囲の内容(体の問題)として捉えれば、からだの専門家(=医師)に任せればいいことにとなります。これまで制限のかかっていた「性交、妊娠、避妊、人工妊娠中絶」等を含む性教育が実施されること自体は前進的なことです。
教職員の超多忙状況を放置したままでは、どのような新しい教育施策も「重荷」として受け止められます。性教育も例外ではありません。その点、「外部講師委託」は比較的教職員の負担も軽く、受け止められやすいという面を持っているでしょう。また、「性教育は苦手」「できればやりたくない」という、教員自身が学んでいないことからくる不安や自信のなさを低減するかもしれません。しかし、手放しで喜ぶわけにはいきません。 - 「外注化」依存で済ませるわけにはいかない
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性教育の「外注化」に依存し続けると、教職員が性教育実践の主体者として成長することはできにくくなります。今求められている性教育は「からだの教育」にとどまらない、包括的な性教育です。この包括的性教育について、国際的な指針である「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」は次のように述べています。
「包括的性教育はセクシュアリティを精神的、心理的、身体的、社会的側面で捉えながら、カリキュラムをベースにした教育のことである」
また、次のようにも述べています。
「自身の健康・幸福・尊厳への気づき、尊重の上に成り立つ社会的関係・性的関係の構築、個々人の選択がいかに自己・他者に影響し得るのかという気づき、生涯を通じ自身の権利を守ることへの理解・実行といったものを実現できるような知識、スキル、態度、価値観を子どもに身につけさせることが主な目的である」(ユネスコ「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」2009.2018)
これらは、まさしく教育の課題であり、学校が自らの中にその推進主体を形成していくべきものです。さまざまな人びととの協力、共同は必要です。しかし、学校教育の課題であるからには、教職員がその主体者になることは必須です。教職員が包括的性教育実践の主体者として成長することによって、学校という場が、多様性を大切にし、性を人権として捉える場に作りかえられていくのです。外部講師委託によって始まる新たな性教育の実行にあたっては、このような広い展望を持つ必要があるのではないでしょうか。
現在「性教育の手引」改定が都教委によって進められています。8月25日に第1回の改定委員会が開かれ、あと2回の会合をもって改定をする予定とのことです。このスケジュールからは抜本的な改定は期待できません。
私たち性教協は、6月12日に都議会宛に次のような陳情を出しました。18日にはその審議が行われることになっています。 -
東京都教育委員会に対して、あらためて申し入れを行い、「手引」の抜本的見直しと改定を求めるとともに、「外注化」方針で終わるのではなく、学校に包括的性教育を根付かせ、花開かせるための総合的な施策を求めて行きたいと考えます。
- 声明文全文ダウンロード
東京都が進めている「性教育の手引」改訂に関する陳情
2018年6月12日提出
東京都議会議長尾崎大介殿東京都が改訂を進めている「性教育の手引」の改訂プロセスを透明にし、公開するとともに、幅広い見識を集めるようにしていただきたい。 |