TOP| イベントの紹介| 性教協の紹介| 性教育関連資料| 季刊SEXUALITY| リンク| Seikyokyo_Webをフォローして下さい| 性教協Facebookのページ

東京都の「性教育の手引」改訂版に対する性教協の見解

■東京都の「性教育の手引」改訂版に対する性教協の見解

  〜性教育を抑制する現場管理のための「手引」ではなく、
          性教育実践を発展させるための「手引」に〜

2019年6月7日

一般社団法人"人間と性"教育研究協議会幹事会
 
はじめに
 2019年3月28日、東京都教育委員会第6回定例会において、 東京都による改訂版「性教育の手引」が発表された。10数年ぶりの改訂である。 改訂作業に携わった作成委員、ワーキンググループの皆さんをはじめとした関係者各位の労を多とする ものである。
 発表に先立ち、私たち性教協は、2018年11月16日に東京都教育委員会に対して「東京都教育委員会の『性教育の手引』改訂作業に関して―現場の性教育実践を応援し発展させるスタンスで改訂作業を―」という申し入れを行った。 その中では「東京都における児童・生徒の性意識・性行動の実態調査、現場教師や保護者からの聴き取り調査(中略)などを踏まえ」、「性的自己決定能力をはぐくむこと(中略)を、性教育実践の課題として明確にする」とともに、改訂作業においては、討議内容の公開、広く意見を聞く機会の設定、学習指導要領の大綱的性格を重視する こと、ユネスコの「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」 (以下『ガイダンス』 )等の国際的な潮流を踏まえた「性教育の手引」の作成等を提起した。
 しかし、今回の改訂において、 広い立場からの意見の集約も行われず、論議の過程も議事録も公開されなかった。このことは大変残念である と言わざるを得ない。
 私たち性教協は、 この改訂版「性教育の手引」が、学校における性教育実践を豊かに発展させるための「手引」 たりえている かどうかという視点で検討した。
 以下、 性教協の見解を示す。

1. 改訂版「性教育の手引」の到達点・成果
@子どもたちが性に関する情報を正しく選択して、「適切な意思決定や行動選択ができる」ことを
性教育の意義として再確認した。
A改訂の基本方針に「主体的・対話的で深い学び」をあげ、集団学習の重要性を示した。
B性的指向および性自認の多様性に対しての配慮や支援の必要性を記した。
C都立七生養護学校(前回改訂当時)の性教育実践を「不適切な性教育」と位置づけ、積極的な性教育を抑制しようとした統制的表現が削除された。
D都内全公立中学校等を対象とした性教育(中学校)の実施状況調査において、校長の42%が「学習指導要領に示されていない内容を指導することも必要だと思う」と回答していることを示し、現行の学習指導要領内に限定した学習内容が生徒の実情に適していないことを明らかにした。
E学習指導要領に示されていない内容も含む産婦人科医によるモデル授業を行い、授業を受けた生 徒の90%以上が、「効果的」で「今後役に立つ」と回答したこと、さらに保護者からも「中学校 のうちに授業で習うことはとても大切だと思う」などといった肯定的な意見があったことなどを示し、学習指導要領に示されていない内容を含む学習内容が生徒の発達段階に適していることを明らかにした。

2. 改訂版「性教育の手引」 の問題点・課題
@性教育の内容として、これまでの「生物的側面」「心理的側面」「社会的側面」の前に「生命尊重」を位置づけ、道徳教育での性教育「指導事例」を多く示しているため、子どもたちの「主体的」な「意思決定や行動選択」に必要な科学的根拠に基づいた知識やスキルの習得に至らず、画一的な「道徳的態度」を押しつけるような内容になっている。
A「手引」に引用されている、子ども・若者の性に関する実態を示すデータは全国レベルの調査結果を主としたものであり、東京都における子ども・若者の現実が把握できていない。
B都の調査等は学習指導要領に示されていない内容を含む学習内容が生徒の発達段階に適していることを明らかにした。しかし、それらの内容は「実践編」に全く反映されていない。
C1996年都教委の「性教育の手引」中学校編においては、「生命誕生」の授業例として、「性交・受精について考える」があげられていた。当時の学習指導要領にも「性交」というテーマは位置付いていなかったのだが、都は重要なテーマとして位置づけた。今回の改訂「手引」は、この水準まで「回復」していない。
D性的指向および性自認の多様性に対しての配慮や支援の必要性への言及が注記のみであり、「指導事例」には反映されておらず、子どもたちの現実やニーズに適していない。
E学習指導要領に示されていない内容を含む性教育を実践する場合、「事前に学習指導案を保護者全員に説明し、保護者の理解・了解を得た児童・生徒を対象に個別指導(グループなど同時指導も可)を実施することなどが考えられます」ということを留意点の一例として示しているが、他教科では想定も実施もされていない方法であり、現実的に困難な方法のみを示しているために、「例」のはずが「必須」であるかのように捉えられる可能性が高く、学校での積極的な性教育実施を阻害するおそれがある 。
F学習指導要領に示されていない内容を含む性教育を実践する場合、「事前に学習指導案を保護者全員に説明し、保護者の理解・了解を得た児童・生徒を対象に個別指導(グループなど同時指導も可)を実施することなどが考えられます」ということを留意点の一例として示しているが、「主体的・対話的で深い学び」という集団学習の重要性を軽視している ものと言わざるを得ない。
G性教育を実施するにあたり、「学校全体で共通理解を図ること」が大切であるとしている。しかし、「学校全体で共通理解を図る」ために教育委員会が積極的に性教育(学習指導要領に示されていない内容を含む)の必要性と重要性を強調して説得等の支援をする旨の記述はみられない。そのため、特に学習指導要領に示されていない内容を含む性教育を実践する場合に、「学校全体」での「共通理解」が得られないことを理由として、個々の教員の創意や積極性を押しとどめることにつながり、子どもたちのニーズおよび発達段階にあった性教育の困難にする可能性がある 。
H「実践編」において、「結婚や出産に関しては個人によって考え方が多様であることを尊重し」といった記述や、「性的指向・性自認に係る児童・生徒にきめ細かに対応する」という記述があ
るにもかかわらず、「指導事例」は、「男女交際」しか想定されていない内容や、恋愛し結婚し出
産することが前提となっている内容であり、多様性が全く尊重されていない。そのため、多様な子どもたちの学習権が保障できていないだけでなく、画一的な人生設計の展望を押し付け、「適切な意思決定や行動選択」に反するものとなっている。

おわりに
 私たちは、これまでに述べてきた問題点や課題を解決し、子ども・若者のニーズにこたえるために、東京都教育委員会も「ガイダンス」等の国際的指針を学び、包括的性教育を積極的に推進する立場に立つことを求める。
 私たちは、 子ども・若者たちと性をめぐる現実を科学的にとらえる努力をこれからも続けていく。
 私たちは、「ガイダンス」に記載されている、性に関する学習課題も参照しながら、性に関する学習権を保障し、主体的に意思決定や行動選択するための科学的根拠に基づいた知識とスキルを身につけられるような「手引」を継続的につくり続ける。そして、教職員、保護者、専門家、行政等の力を結集し、協働的に包括的性教育を推進していく 。
以上
 

包括的性教育を求めるその他の声明、提言等

 

戻る