TOP| イベントの紹介| 性教協の紹介| 性教育関連資料| 季刊SEXUALITY| リンク| Seikyokyo_Webをフォローして下さい| 性教協Facebookのページ

性教協声明(2021年6月2日)

今こそ「理解増進」の先をいく性教育を
 〜「LGBT理解増進法案」の
    今国会への提出見送りの情勢のもとで〜

■今こそ「理解増進」の先をいく性教育を
 〜「LGBT理解増進法案」の今国会への提出見送りの情勢のもとで〜
  
 2021年5月28日、「性的指向及び性自認の多様性に関する国民の理解の増進に関する法律案」(以下、「LGBT法案」)が自由民主党総務会で、一部の保守派の異論に押されたなかで、審議日程が確保できないことを理由に、今国会への提出を見送る情勢にあります。
 この「LGBT法案」は、自由民主党が2016年に法案概要をまとめ、国政選挙の公約集でも「理解増進を目的とした議員立法の速やかな制定」を掲げてきたものであり、自民、公明、立憲、国民民主、共産、維新、社民の各党が、法律の目的と基本理念に「性的指向及び性自認を理由とする差別は許されないものであるとの認識の下」と加えることなどで修正合意し、全会一致で今国会成立をめざすとしていたものです。

 LGBT法案の「目的」には次のような文言が示されています。「この法律は、全ての国民が、その性的指向又は性自認に関わらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、性的指向及び性自認を理由とする差別は許されないものであるとの認識の下、性的指向及び性自認の多様性に関する国民の理解の増進に関する施策の推進について、国の役割等を明らかにするとともに、必要な措置を定め、もって性的指向及び性自認の多様性を受け入れる精神の涵養並びに性的指向及び性自認の多様性に寛容な社会の実現に資することを目的とすること。」

 このLGBT法案に「差別の禁止」が明文化されなかったこと、加えて、「差別行為」の定義の必要性に関する議論が不十分であることは、すでに成立している「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(いわゆる「障害者差別解消法」)や「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」(いわゆる、「ヘイトスピーチ解消法」)などと同様の課題を残しているといえます。
 ただし、ヘイトスピーチ解消法の前文で「不当な差別的言動はあってはならず」と記載されたことで、法律が施行されない段階でも、ヘイトデモ禁止の仮処分を獲得した例があること(2016年6月2日横浜地裁川ア支部決定)を鑑みると、「性的指向及び性自認を理由とする差別は許されないものである」という文言を明記させたことには大きな意義があると考えます。

 私たち一般社団法人"人間と性"教育研究協議会(以下、性教協)は、1982年の設立以来、「人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利」(世界人権宣言)である人権を性教育の土台に位置づけてきました。個人の尊厳と法の下の平等は日本国憲法第13条および第14条にも明記されています。
 本法案は、上記のような課題を残しているものの、性的マイノリティを含むすべての人の地位を貶め生存を脅かし、多様な生き方を制限するといった行為から性的マイノリティを守る役割を担うものとなりうるでしょう。
 そのような本法案が、一部の保守系議員の反対によって成立をさまたげられていることは、大きな問題であると考えます。
 加えて、本法案の審議において、自由民主党所属の山谷えり子議員によるトランスフォビア(トランスジェンダーに対する嫌悪)を助長する発言や、簗和生議員によって「生物学的に自然に備わっている『種の保存』にあらがってやっている感じだ」という性的マイノリティ差別発言がなされたことは由々しき問題です。
 私たち性教協は、国会議員、地方議会議員による性的マイノリティへの差別発言の問題性をこれまでも繰り返し指摘してきましたが、今回の差別発言を「許容」してしまうことを断固として認めないためにも、本法案に、人権意識に基づいた差別行動の様態の定義とともに、「差別の禁止」を明記する必要があります。加えて、生涯にわたる教育による発達の重要性を問うてきた私たちは、人権としての性を、差別発言に関わった当該議員はもちろん、かれらの差別性に気付けなかった周りの人びとも含め積極的に学ぶことを強く求めます。立法に関わる国会議員こそ、襟を正してください。

 本法案の成立を見越して、私たちは、今後に向けて、共に自らの性教育実践を捉えなおしていくことを決意しています。現在の私たちの性教育実践は、性的マイノリティの人を含むすべての人の性の平等を保障するものになっているでしょうか。日本国憲法にもある通り、「すべて国民は(略)差別されない」(第14条)ことや「公共の福祉」(第12条・第13条・第22条・第29条)に反する言動は、私たちが実践してきた性教育の理念とは相いれないものです。
 私たち性教協は、さまざまな性を生きる一人ひとりが自己の性について学び、他者の性について学ぶといった性の学習権、つまり包括的な性教育を受ける権利(性の健康世界学会「性の権利宣言」2014年)が保障されることを求めています。私たちが追求する性教育は、「多様性は、セクシュアリティの基本である」(ユネスコ「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」2009年)という子どもおよびおとなを含む私たちの現実を前提に、個人の決定を尊重し、平等で豊かな関係を育み、暴力や差別のない社会を実現するものであることを、ここで改めて確認します。

 法案をより良い形にして成立させることを望むと同時に、私たちは「理解増進」をこえて、あらゆる性差別のない社会を実現させるための性教育を共につくっていくことを表明するものです。

2021年6月2日

一般社団法人"人間と性"教育研究協議会幹事会
 


  今こそ「理解増進」の先をいく性教育を〜「LGBT理解増進法案」の今国会への提出見送りの情勢のもとで〜(声明PDF版)

 

包括的性教育を求めるその他の声明、提言等

 

戻る