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いわゆる「はどめ規定」に関する性教協の見解

2025年6月14日
一般社団法人"人間と性"教育研究協議会(性教協)幹事会

1.学習指導要領の改訂時期を迎えています

2024年12月25日、学習指導要領の改訂に向けた検討が、文科大臣から中教審=中央教育審議会に諮問されました。10年ごとの学習指導要領改訂がキックオフされたのです。
今後、2026年12月の中教審答申を事実上の最終結論として、さまざまな機構で議論と検討、まとめの作業が進められていきます。
(下表 2025年度以降のスケジュールは前回改訂のものをあてはめたのでその通りになるかは不明)
年度 ポイント 備考
2024年度 9月 有識者検討会
「論点整理」
 
12.25 文科大臣諮問
中教審総会において諮問
改訂キックオフ
2025年度 8月 教育課程企画特別部会
「論点整理」
答申のたたき台で具体的な素案となるもの。
今の指導要領の場合、2015年1月からスタート。8月論点整理発表。2016年12月まで16回開催。
10月 教科別ワーキンググループ
スタート
各教科の内容は事実上ほぼ決定
2026年度 8月 教育課程部会
「審議まとめ」
ほぼ結論 ←ここでパブコメ。しかし形式的。
12月 中教審答申 最終結論
2027年度 3月 指導要領改正告示  
2028年度 7月 指導要領解説  
2029年度 移行措置  
2030年度 新指導要領スタート  
 

2.「学習指導要領は法規ではない」(最高裁決定)「学校と教職員の創意工夫が重視される」(学習指導要領『総則』)

 全国のどの地域で教育を受けても、一定の水準の教育を受けられるようにするため、文部省・文科省は、各学校で教育課程を編成する際の基準を定めてきました。これを「学習指導要領」といいます。
 学習指導要領は、戦後すぐには「試案」として作られましたが、1958年からは現在のような大臣告示の形で定められ、それ以来、ほぼ10年毎に改訂され、その基準性は次第に強められてきました。

 文科省が作成した学習指導要領「総則」には次のような記述があります。
・学習指導要領には「基準性」があり、そこに示された内容は「すべての児童に対して確実に指導しなければならないもの」
・同時に、必要がある場合には、各学校の判断により、「学習指導要領に示していない内容を加えて指導することも可能」
・また、各教科等の指導の順序、時間割の弾力的編成、「総合的な学習の時間」の目標や内容を各学校で定めることなど、「学校や教職員の創意工夫が重視されている」

 2013年11月の「ここから裁判」最高裁決定では、学習指導要領について、「一言一句が拘束力すなわち法規としての効力を有するとすることは困難」としています。最高裁決定はさらに、教育実践は「教育を実践する者の広い裁量」にゆだねられるべきであるとも述べています。
 また、同最高裁決定は、特別支援学校の学習指導要領についても、「各学校の児童・生徒の状態や経験に応じた教育現場の創意工夫に委ねる度合いが大きいと解することができる」と述べています。
 教育委員会の権限についても「教員の創意工夫の余地を奪うような細目にまでわたる指示命令等を行うことまでは許されない」とも述べています。
 私たちは学習指導要領を「大綱的基準」と捉え、教育実践は学校と教職員が作っていくものだという原則を改めて確認する必要があります。

3.いわゆる「はどめ規定」とは

 わたしたちが問題だと考えている「はどめ規定」は性教育に関係する次の二つです。

 小学校5年生の理科「B 生命・地球」「(2)動物の誕生」の「(内容の取扱い)」という欄に「(3) 内容の『B生命・地球』の(2)のウ(注:人は、母体内で成長して生まれること)については、受精に至る過程は取り扱わないものとする」とある記述。

 中学校保健体育保健分野「(4) 健康な生活と疾病の予防」、「3内容の取扱い」、「内容の(1)(心身の機能の発達と心の健康)のイ(思春期には,内分泌の働きによって生殖にかかわる機能が成熟すること。また,成熟に伴う変化に対応した適切な行動が必要となること)については、妊娠や出産が可能となるような成熟が始まるという観点から、受精・妊娠を取り扱うものとし、妊娠の経過は取り扱わないものとする」とある記述。

 どちらも意味が明確ではない記述ですが、学校教育の現場では「小中学校では、卵子と精子が出会う生命のはじまりにかかわる行為としての性交を教えてはならない」という内容だと理解されています。

4.文科省の説明

 〇川田龍平議員の質問に対する答弁書 (2018年7月27日)
 「いわゆる『はどめ規定』は、これらの発展的な内容を教えてはならないという趣旨ではなく、すべての子どもに共通に指導するべき事項ではないという趣旨である」とされている。
 また、中学校学習指導要領(平成二十年文部科学省告示第二十八号)においては、「第二章以下に示す内容の取扱いのうち内容の範囲や程度等を示す事項は、すべての生徒に対して指導するものとする内容の範囲や程度等を示したものであり、学校において特に必要がある場合には、この事項にかかわらず指導することができる。(以下略)」とされている。

〇文科省初等中等教育局長答弁(2020年11月17日参院文教科学委員会)
 子供たちの実態が、それぞれ一人一人成長の段階にあるわけで、同じ学年にいる子であっても相当程度にその生徒間の発達の段階の差異も非常に大きいと。その中で、その発達している状況をしっかりと見極めた上でどう指導していくかと。
 先ほど委員から歯止め規定のお話ございましたが、歯止め規定そのものは、決して教えてはならないというものではなくて、全ての子供に共通に指導するべき事項ではない、ただし、学校において必要があると判断する場合に指導したり、あるいは個々の生徒に対応して教えるということはできるものでございますので、そうした慎重な見極めないしは判断というところは心を最低配っているところかなと思っております。

 文科省などは、公式の場ではこのように説明していますが、多くの現場の教員は、教育委員会や管理職から「(『性交』ということについては)教えない方がいい」、「教えないように、取り扱わないように」と指示された経験を持っています。

5.性教協は「はどめ規定」の撤廃を求めます

 私たち"人間と性"教育研究協議会(性教協)は、包括的性教育を広げることを中心とした活動を進める研究団体です。日本の子ども・若者に、人権に立脚した科学的な性の学びを届けることが必要だと考えています。
 以下、私たちがいわゆる「はどめ規定」記述を学習指導要領から削除することを求める理由を列挙します。

理由
@いわゆる「はどめ規定」は、「内容の取り扱い」という欄に書かれています。「〜は取り扱わないものとする」だけの否定形の記述は、「すべての児童に対して確実に指導しなければならないもの」を示す大綱的基準としての学習指導要領にも、「内容の取り扱い」にもふさわしくありません。
A「はどめ規定」は、「受精に至る過程」と「妊娠の経過」を「取り扱わないものとする」とするだけで、どの科目で、どのように取り扱うかを一切示していないため、「小中学校では卵子と精子が出会う生命のはじまりにかかわる行為としての性交を教えることを禁止している」と受け止められます。
B一方、中学校の保健体育では、「例えば,エイズの病原体はヒト免疫不全ウイルス(HIV)であり、その主な感染経路は性的接触であることから,感染を予防するには性的接触をしないこと,コンドームを使うことなどが有効であることにも触れるようにする」として、「性的接触」(性交)について学習しなければならない記述があり、矛盾しています。
C「禁止」と受け止められたり、実際に禁止扱いされたりすることによって、「はどめ規定」は、性教育実践をストップさせたり、委縮させたりする「テコ」の役割を果たしています。
Dその結果生まれている性教育の貧困は、子ども・若者が性に関する正確な知識を獲得することを妨げています。多くの子ども・若者がインターネット上の不正確で営利主義的・暴力的な性情報の氾濫に巻き込まれています。
Eそのことは、子ども・若者が性暴力を正しく認識することを妨げ、性暴力被害を広げることにつながっています。
Fさらに、性感染症感染や予期しない妊娠の増加にもつながっています。
Gいわゆる「はどめ規定」が学習指導要領に導入された経緯は、文科省幹部自身が「根拠を明示的に示すことはできない」と述べざるを得ないように、いわばブラックボックスとなっており、学術的・学問的根拠も示されていません。「はどめ規定」は恣意的な記述というべきものです。
H文科省が「はどめ規定」の理由として挙げる「発達段階にふさわしい内容」は、開かれた場での学問的・教育的な研究と議論の中で形成されるべきです。

6.「はどめ規定」を撤廃するために力を合わせましょう

 子ども・若者に必要な性の学びを届けるために、今回の学習指導要領改訂を機に「はどめ規定」を撤廃しましょう。
 この一致点で力を合わせ、協同の取り組みを進めていきましょう。
 たくさんの学びの場をつくって共に学び、共に広く各方面にはたらきかけ、10万人単位の大規模なインターネット署名を軸に、メディアの力も借りて大きな世論をつくりましょう。
 大きな世論を背景に、文科省、中教審のいろいろな議論ステージ、政治家などに要望を届け、撤廃を実現しましょう。
 いわゆる「はどめ規定」に関する性教協の見解(PDFダウンロード)

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